「いらだちに直面する仕事」
介護支援専門員が向き合う
怒り、悲しみ、不安の正体
――人生の最終章を見つめて
本書を読んでもらえればわかると思うが、あらかじめ申しあげておく。
私は優秀なケアマネジャーではない。
書類整備などの実務に追いつけない。手際が悪く、機転がきかない。
お仕事小説やお仕事ドラマの主人公のようにいつになったら成長するのかとあきれながら、もう70歳も目前に迫ってきた。
――本書は、そんな私の極限状態における滑稽さも描いた。日記形式になっているが、すべて私が実際に体験したことである。
第1章「感情労働者」より
「こんなヘボなケアマネ、見たことねえぞ。おまえみたいに能力がないケアマネは、き・え・ろ!」私を大声で罵倒したのは78歳でひとり暮らしの男性だ。難病で歩行困難なうえ、半年前に受けた胃がんの手術のあとの痛みが激しく、いつも苛立っていた。
大学病院への通院に付き添ったとき、私が診察後の精算に戸惑ったことで怒りを爆発させた。
「おまえはもうどこかに行け! これ以上、俺に、さ・わ・る・な!」
ケアマネになって20年、利用者から出入り禁止を食らって、どうにもならなくなった経験が5回ある。自分から断ったことは一度もない。
私たちケアマネは常時、大なり小なり、利用者の怒りにさらされる。ケアマネは、利用者や家族の怒りや不安、悲しみに直面する「感情労働者」だ。
もくじ
まえがき――成長しないケアマネ物語第1章 ケアマネの多難すぎる日常
某月某日 感情労働者: 「俺に、さ・わ・る・な!」
某月某日 ケースワーカーの〝使命〟: 「あなたと話す必要はない」
某月某日 綱渡り:90代と60代のハローワーク
某月某日 猛反対:生活保護をめぐる兄弟の攻防
某月某日 本日も残業なり:地域包括支援センターの、ある一日
某月某日 元気すぎる認知症:妄想が「自立」の邪魔をする
某月某日 「ふつう」になりたい:職を探す旅
某月某日 おむつ交換おばさん:私のモチベーション
某月某日 夢の職業:ゾクゾクするような快感
第2章 「老い」と「死」の最前線
某月某日 ゴミに埋もれたアルバム:アルコール依存症
某月某日 息子には仕事がない:父親がいなくなったら…
某月某日 おだっくい:一人三役のコント活動
某月某日 一緒に暮らしましょう:考え抜いたウソ
某月某日 がん治療:最期の迎え方
某月某日 認知症棟:脳裡に刻まれる母と娘
某月某日 愛の(?)キーホルダー:迎えに行くのは誰?
某月某日 終の棲家:大家との対決
第3章 人間関係はいつもヤッカイだ
某月某日 もうすぐ定年:それでもまだ働きたくて
某月某日 不機嫌なドクター:人生を懸けた交渉
某月某日 一抹の不安:素朴な好青年の正体
某月某日 辞めてもらいます:突然の宣告
某月某日 追放:ため込んで爆発するタイプ
某月某日 監視と非難: 「もう一度、書き直してください」
某月某日 孤立: 「レセプトをやったことないですって!」
某月某日 メール騒動: 「非常にまずい事態になりました」
某月某日 ド素人以下: 「許せる行為じゃありません」
某月某日 シミュレーション: 「辞めさせていただきます」
第4章 まだまだ辞められない
某月某日 火の車:垂れ流される赤字
某月某日 ベテランと甘ったれ:介護のプロの嘆き
某月某日 ホステス: 「うらぶれた人間になるな」
某月某日 ワンマンショー:恐るべき訪問看護師
某月某日 ライブ配信:娘の副業
某月某日 ロシアンルーレット:あるおじさんケアマネの告白
某月某日 疑似家族:気がかりな〝妹〟
某月某日 入院拒否:放り出される瀕死の患者たち
某月某日 心配ないよ:責めない、叱らない、蔑まない
あとがき――夢のような日々
【発行】三五館シンシャ/【発売】フォレスト出版