私の知るヨシイエはもういない。自民党の集まりやメディアで「ヤンキー先生」と紹介されている人は、私が描いた「ヤンキー先生」とは別人だ。
それならば、私にできること、しなければならないことは、一つしかない。
「ヨシイエ」と「義家氏」の間に、境界線を書くことだ。できるだけ濃く、できるだけ太く。
私はささやかだが、ある行動を起こすことにした。
――『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』で開高健ノンフィクション賞受賞の著者による、悔恨と検証のドキュメント。
この生き様、上昇か? 転落か?
この本を著すことが、学校にとっていいことなのかどうなのかはわからない。意外にも、「ヤンキー先生」が元気を取り戻す結果につながらないとも限らない。
しかし、私は、「ささやかな事実」「ごく限られた人たちの、大切な記憶を」「歪められたくない」。その後の化学反応は、ケセラセラ。どう転ぼうが、受け止める……「なんだかリアルだねえ」と。
描かれたあとも、その人たちの人生は続いていく。
私にできることは、その人たちの人生が描かれた作品よりもはるかに味わい深いものになるよう願うこと。そして私自身が、より細心に、しかし委縮はせず、一つ一つの「リアル」と向き合っていくこと。
もくじ
序章 「祭りのあと」の二十年第一章 バクダン貴公子
寄り添う影
取材者の戸惑い
「取材して番組にしろ」
貴公子の置き手紙
涙の胴上げ
第二章 ヤンキー母校に帰る
「あなたは私の夢なの」
「地獄に落としてやる!」
授業と親父ギャグ
「あれは本当に地獄だった」
教え子との結婚
突然の取材拒否
「おまえらは俺の夢だ!」
第三章 天国と地獄
連続ドラマとベストセラー
正しいビンタの張り方?
「ヤンキーの学校じゃない」
「高速道路で車は急に止まれない」
ヤンキー御殿?
「TBS? お引き取りを」
「金持ってちゃ悪いか!」
夢は逃げた…
「学校やめたりしませんよね?」
「死にたい…」
第四章 「訴訟を検討している」
悪夢の謹慎処分
自殺未遂
理由は一つじゃない
漫画家の訃報
第五章 副大臣と「俺の夢」たち
母校から母港へ――二〇〇五、二〇〇六
「○○、そっちにやるぞ!」
「私の顔にモザイクをかけてほしい」
ヨシイエから義家氏に――二〇〇七
義理とスジ――二〇〇八~二〇一〇
両者の「境界線」――二〇一一~二〇一三
ガンさんが亡くなった
「ピンハネ? 俺が?」
廃校阻止――二〇一四~二〇一九
「今、楽しい?」
北星余市からの要望――二〇二〇~二〇二四
「一切書かないでください」
第六章 やっぱりおまえはヤンキーだった
夜回り先生の嘆き
教科書をめぐる闘い
戦争マラリア
「このヘタレが!」
「面従腹背」と「面強腹弱」
第七章 道の先
「ヨシイエには合ってないんじゃないかな?」
恩師の異変
残酷な「リアル」を味わう
最終章 「いってらっしゃいませ!」
雨の駅前広場に立つ
流れに飲み込まれないように
【発行】三五館シンシャ/【発売】フォレスト出版
著者について
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1963年、愛媛県生まれ。北海道大学卒業後、北海道放送入社。ディレクターとして、ドキュメンタリー、ドラマ、情報番組などの制作に携わる。高校中退者や不登校の生徒を受け入れる北星学園余市高校の取材では、「学校とは何か?」で放送文化基金賞本賞、「ツッパリ教師の卒業式」で日本民間放送連盟賞を受賞。また、『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(集英社)で第18回開高健ノンフィクション賞、『北緯43度の雪 もうひとつの中国とオリンピック』(小学館)で第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞するなど作家としても高く評価される。本作では、テレビ制作者として世に送り出した「ヤンキー先生」こと義家弘介氏の人生の〝リアル〟を、悔恨とともにつづる。
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