「記憶力は悪くてもいい」を証明する!
ロボティクスの第一人者が、工学という立場から、記憶のメカニズムを解明していく。
ロボティクスとは、ロボットをどう作るかという学問。
これは見方を変えると、
人間を単純化したモデルであるロボットを介して、
システムとしての人間を理解すること。
言い換えれば、ロボット制御のための言葉を人間に当てはめて、
一見、複雑に見える「人間の記憶」というものを、
機械の動作メカニズムのように
解き明かしていこうという試みである。
では、その結論は何かというと、
人間の記憶は、人生において重要ではない、
実は、脳は記憶を忘れるようにできている、
つまり、忘れるというメカニズムは、
人間を成長させている過程にすぎないということである。
だから、「記憶力」というものは必要ないという
大胆な仮説が打ち立てられる。
果たして、記憶力は本当に必要ないのか?
この命題を証明していく。
“脳の成熟”は忘れることにあった!
記憶には、・ものの意味を覚える「意味記憶」
・過去の経験を覚えている「エピソード記憶」
・脳がどこかで覚えている「非宣言的記憶」
という、3つが存在する。
本書では特に、歳を取るたびに、過去の記憶である
エピソード記憶を忘れていくメカニズムや
脳が覚えてしまった記憶が無意識化してしまう
非宣言的記憶の正体を中心に解明していく。
そして、忘れてしまったり無意識化してしまったりすることは、
最終的には、人間の脳が成熟した証拠であり、
忘れていくことが、人生の幸せにつながっていくという、
これまでの脳科学の考え方から逆説的な視点で答えを導いていく。
「人は学習を繰り返しながら成長する。
その過程において、記憶が必要となるが、
いつまでも記憶しようとする脳は、成熟した脳ではない」
この言葉にドキッとした方は、
本当の記憶のメカニズムを探る旅におつき合いいただきたい。
目次
プロローグ第1章 記憶とは何か?
・記憶にはどんなものがあるのか?
・人間が持つ「3つの記憶」
・ものの意味を覚えている「意味記憶」
・過去の経験を覚えている「エピソード記憶」
・脳がどこかで覚えている「非宣言的記憶」
・記憶力が優れた人の脳の中身
・もしも意味がわからなかったらどうなるのか?
・生きるために重要な「意味記憶」
・名前を覚えられないのは本当に不便か?
・意味を理解する力と記憶力は違う
・もしも思い出の記憶がなかったらどうなるのか?
・記憶が衰えると、同じことを繰り返してしまう「エピソード記憶」ができないと不便?
・体で覚えていたことを忘れたらどうなるのか?
・飲み込み方を忘れてしまうのは「非宣言的記憶」を失うこと
・「エピソード記憶」は一部の動物にしか存在しない
・人間の進化と記憶メカニズム
・意識の獲得と「エピソード記憶」の関係
・無意識に行ったことは思い出せない
・「エピソード記憶」は何の役に立つのか?
第2章 記憶と学習のメカニズム
・学習して上達する記憶とは?
・脳は学習した結果を記憶する
・話し方は学習すれば上達する
・プレゼンもリーダーシップも学習によって上達していく
・スキルは先天的なものか、後天的なものか?
・人が学習していくメカニズム
・センサを使う「フィードバック制御」
・人が体で覚えていく「フィードフォワード制御」
・脳が記憶を獲得していく「逆モデル」と「順モデル」
・失敗とは理想と現実を埋める作業
・フィードバックの誤差により人は学習する
・意識と学習のモデル
・フィードバックだけで人間の行動を説明できるのか?
・記憶はフィードフォワードのためにある
・イメージトレーニングは擬似体験学習
・「思考」とは行動に関するイメージトレーニング
・記憶とは学習し体得するための道具
・球技スポーツ上達の万能の方法──バウンドヒット法
・脳は学習をして適応していく
・学習しなくなると人は頑固になる
・脳から見れば、学習しないのも悪くない
・脳はどのようにして適応するのか?
・成長のフェーズによって適応力は変化する
・人間は学習を欲する生き物である
第3章 脳は記憶を消したがる
・脳は記憶を捨てていくようにできている
・歳を取ると「意味記憶」を必要としなくなる
・「エピソード記憶」しないのは刺激に慣れるから
・忘却は何のためにあるのか?
・脳は記憶容量の飽和を防ぐ
・乳児は成長過程で高度な記憶を獲得する
・脳が記憶を増やす時期、減らす時期
・記憶力の低下は脳が不要と判断したからにすぎない
・忘却は脳にとってどんな意味があるのか?
・記憶は忘れるためにある
・記憶が無意識化するのが忘却の正体
・悲しい記憶は何のためにあるのか?
・未熟な脳は常に刺激を求めている
・感情は記憶を将来に活かすための機能である
第4章 人は忘れるために生きている
・記憶という束縛からの解放
・記憶は変化に対応してきた「履歴」の記録
・記憶とは自分にとっての心の引っかかり
・いやな記憶は克服するか、忘れるか
・人は成長するにつれ記憶がいらなくなっていく
・大切な人の病気や死さえも忘れられる
・記憶を消していくことは幸せになること
・記憶のいらない昆虫のような気ままな人生
・人は記憶を捨てれば幸せになるようにできている
エピローグ
※この本は2009年3月にビジネス社から刊行された
『記憶』を大幅に再編集したものです。
著者について
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1962年、山口生まれ。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授。博士(工学)。1984年、東京工業大学卒業、1986年、同大学大学院修士課程修了後、キヤノン株式会社入社。超音波モーターや精密機械の研究開発に従事。1995年、慶應義塾大学専任講師、同大学助教授を経て、2006年より同大学教授。1990~1992年カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、2001年、ハーバード大学訪問教員。 現在、ヒューマンシステムデザイン研究室において、システムデザイン方法論(システムアーキテクティング方法論、教育方法論、科学技術倫理)、科学技術システムデザイン(触覚システム、ヒューマンマシンシステムデザイン)、人間社会システムデザイン(幸福学、イノベーション教育、社会システムデザイン)などの研究に従事。日本機械学会賞(論文)、日本ロボット学会論文賞、日本バーチャルリアリティー学会論文賞などを受賞。 著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房)、『脳の中の「私」はなぜ見つからないのか?』(技術評論社)、『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)などがある。
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