著者の酒井さんはすべての物事に造詣が深く、哲学を語るのにもビジネスは言うに及ばず、社会学、歴史、生物学、宗教、脳科学など、さまざまな視点で哲学をとらえています。とくに今回のテーマである「自己啓発にハマッてしまう罠」について、ソクラテス、プロタゴラス、デカルト、ヒューム、カント、サルトルらの哲学をとおして、生きる本当の意味がわかってきます。「絶望から逃げるのではなく、哲学をはじめること」から希望が見えてくる1冊です。
POSTED BY稲川
衰退する日本社会に自己啓発が罠を仕掛ける!?
人工知能の台頭、働き方の変化、少子高齢化など、とくに若い人たちは絶望へ向かう社会の中で、
今の状況をのんびり眺めていられなくなりました。
日本が迎えている状況は、
ローマ文明、漢文明、メソポタミア文明など
高度に発達した豊かさにもかかわらず滅んでしまった文明と
よく似た道をたどっていると言えるからです。
こうした世の中にはびこるのが自己啓発ビジネスです。
かつて『三国志』の時代にもオカルトが流行し、
魏国の曹操はこれを規制した時代もありました。
人の不安や恐れに入り込むのが、
こうした自己啓発ビジネスです。
特に二極化する貧富の差により、
自己啓発ビジネスは、貧困におびえる人の心の隙間を利用し、
自己啓発のカモにしていきます。
しかし、自己啓発にはまってしまった人が
すべて成功できるかというと、それは言うに及ばず、
むしろ家族や友人の関係を破壊しかねません。
(もちろん人生が豊かになる人もいますが、
そこには科学的根拠はありません)
そもそも自己啓発ビジネスは、
自尊心が満たされていない人をターゲットにしているため、
コミュニティーの中で、それが満たされる仕組みを作り上げます。
そうして囲い込まれた人たちは、お金を失うだけで、
儲かるのは自己啓発ビジネス側だけというのが仕組みです。
答えをあなたの外側に求めることが哲学
自己啓発と哲学の決定的な違いは、その答えを自分の内側に求めるか、
自分の外側に求めるかということです。
自分の内側に答えを求めるというのは、
努力すれば成功できる、自分の可能性を信じるというもので、
それを信じれば信じるほど、
薄っぺらな自己啓発ビジネスの罠にはまってしまいます。
いっぽう哲学は、自分の内側にひそんでいる可能性を
あきらめることから出発します。
言い換えれば、自分への執着を捨て去ることの必要性を
説いた学問なのです。
その姿勢は、世の中の絶望と向き合い、
外側の世界に見えるわずかな真実とともに生きることです。
本書は、自己啓発を捨てて哲学に生きることを提唱しています。
ソクラテス、プロタゴラス、デカルト、
ヒューム、カント、サルトルら哲学者が考えてきた哲学にそって、
哲学が自己啓発を否定する流れを解説していきます。
「自分こそが正しい」という、
人間に不幸をもたらすであろう絶望から、
その興味を自分の外側に向けていく哲学にこそ、
私たちが救われる道が見いだされ、
そこに救済の可能性があるのです。
目次
はじめに第1章 自己啓発をあきらめる
◆現代の日本で自己啓発が流行る理由
衰退する社会での生き残り競争
働き方が曖昧になりつつある今、自分で自分の未来を考える
末期的な環境には自己啓発が入り込む
◆自己啓発では金銭的な成功が得られない理由
金銭的成功の不都合な真実
都合よく「宝くじに当選する方法」は存在しない
◆絶望から逃げるのではなく哲学をする
絶望と向き合い、わずかな真実とともに生きる
欲求は理性によって生み出すことはできない
役に立つかどうかではなく、知ることを目的とした哲学の意味
◆自己啓発と哲学の決定的な違い
好奇心を自分の内側に向けない
哲学だけが大罪を消してくれる
◆自己啓発コミュニティーの脆弱性について
表面的な人間関係は、より強い孤独と不安を与える
自己啓発は「孤独と不安」を虚構によって満たす
コラム ご神木になにを読み取るか
第2章 神はいるのかという問題
◆生物の目の構造が教えてくれること
生物は「神」が創造したものなのか?
◆私たちの意識はどう生まれたのか
哲学における二つの難題
意識は人間だけに与えられた特別なものではない
◆東洋思想における決定的な弱点
真理に到達するには体験しかないとする東洋思想
東洋思想の保存が自己啓発の土壌を生んでいる
◆なぜいきなり真理に到達できる天才が現れるのか
脳内には人間が理解できることのすべてが、はじめから入っている
生物は生まれたときから「知るべきことを、知っている」
コラム 曹操によるオカルト規制
第3章 哲学への誘い
◆古典的な哲学のおおまかな流れ
プロタゴラスは「人間は万物の尺度である」と考えた
ソクラテスは「そもそも哲学とはなにか」を考えた
デカルトの「方法的懐疑」が人類を飛躍させた
プロタゴラス的な相対主義を再燃させたヒューム
サルトルによって自己啓発が否定される
カントは哲学に命を与えた
ポストモダンの時代に
◆人間に不幸をもたらす認識について
「自分こそが正しい」という絶望
興味を自分の外側に向けていくことが哲学
◆哲学を進めるときの留意点
再現性によって自己啓発を否定する
◆魂は不滅なのか?
魂の不滅を疑うからこそ死の恐怖は乗り越えられない
今をどう生きるかを考えることが哲学的態度
◆私たちの成長と哲学の関係(キーガンの発達理論)
キーガンによる発達段階理論
役に立たないことを受け入れることが希望となる
コラム 社会的弱者として生きることは自己責任ではない
おわりに
著者について
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株式会社リクシス創業者・取締役副社長CSO(Chief Strategic Officer)、新潟薬科大学客員教授、認定NPO カタリバ理事、介護メディアKAIGO LAB 編集長。
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1972 年東京都生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg 大学 TIAS School for Business and Society 経営学修士号(MBA)首席(The Best Student Award)取得。商社にて新事業開発に従事後、オランダの精密機械メーカーに光学系エンジニアとして転職し、オランダに約9 年在住する。帰国後はフリービット株式会社(東証1部)の取締役(人事・長期戦略担当)を経て、東日本大震災をきっかけに独立。
主な著書に『はじめての課長の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『これからの思考の教科書』(光文社・知恵の森文庫)、『幸せの経営学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『曹操』(PHP 研究所)、『料理のマネジメント』(CCC メディアハウス)などがある。
印税寄付プログラムChabo! 参加著者。