論点すりかえ、記号論理、不完全性定理、古典論争、パラドックス、社会的ジレンマ……、これだけの情報がコンパクトに詰まった一冊!
詭弁・暴言・論破に打ち勝つロジカルコミュニケーション
高橋 昌一郎 著






本書の原稿を読むまで、私は「論理」とは数学のように、必ず「答え」があるものと勘違いしていました。論理的に考えれば、必ず最適解が選べるのだと。そうした一面もあるのでしょうが、私がもっと重要だと感じたのは、論理的に考えることで、思ってもみなかった新たな可能性に気づけるということです。2つしか選択肢がないと思っていたのに、じつは4つも8つもあったりします。それをシルことができれば、問題解決能力が高まりますし、もっといえば、より豊かな人生の選択ができるようになるはずです。本書では、そうした論理的思考を基礎から応用まで解説します。そのうえで、相手を論破したり、黙らせたりするのではなく、建設的な話し合いのもと、できるだけ双方が納得できる着地点を探る「ロジカルコミュニケーション」が身につくように構成されています。

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ホンモノの論理力とディベート力を身につける知の技法とトレーニング
「コミュニケーション」の根底にあるのは「他者理解」つまり自分以外の人々の考え方や生き方をどのように理解するのかというテーマである。そこで重要になるのは、意見が違うという結論ではなく、なぜ意見が違ってくるのか、その理由を検討することであり、その際に求められるのが「論理的思考」に基づく、次の「ロジカルコミュニケーション」だ。
①賛成論と反対論の論点を可能なかぎり(少なくとも双方3 つ以上)明らかにして、
②どの論点に自分が価値を置いているのかを見極め、
③新たなアイディアを発見するディスカッションの過程を重視し、
④結論を変更してもかまわないので、
⑤その時点における自分の最適解を発見するコミュニケーション・スタイル。
本書では、さまざまな社会的・哲学的問題を提起し、多彩な論点を浮かび上がらせて、ディスカッション・ディベートの技法をつかめるように工夫している。
まともな大人は「論破」しない
現代の日本で主流になっているのは「相手を黙らせるコミュニケーション」だ。双方が自己主張をぶつけ合い、場合によっては相手を嘲笑したり罵倒したりして、一方が黙り込むと、他方が「はい、論破!」のように勝ち誇るというタイプのコミュニケーションといえる。
この種の詭弁・暴言・論破に打ち勝つのが「ロジカルコミュニケーション」である。
とくに、家庭や学校や職場といった生活の中心基盤で、なぜか円滑なコミュニケーションができない、会話そのものが苦手、他者との距離の取り方が難しいなど、コミュニケーションに本質的な問題を抱えている読者には、本書の内容は抜群の効果を期待できるはずだ。
本書の構成
本書は、第1章:基礎、第2章:応用、第3章:論証、第4章:パラドックス、第5章:ジレンマの全5章で構成されている。第1章 論理的に考えて、うまく伝えるには? 【基礎】
「論理的思考」と「コミュニケーション」の基礎を解説する。ここでは「ロジカルコミュニケーション」に必要な最低限度の「マナー」を身に付けていただく。
第2章 詐欺に騙されないためには? 【応用】
「記号」を用いて「論理的思考」の本質を解説する。「+・—・×・÷」の意味がわからないと「算数」を理解できないように、「¬・∧・∨・⇒・⇔」といった「論理記号」を理解できないと、論理学の圧倒的な有効性に到達できないからである。
どうしても「記号」が苦手な読者のためには「論理記号」に対応する「説明」を併記してあるので、そちらを読み進めていただきたい。
第3章 筋道立てて、証明するには? 【論証】
「論理的思考」で最も重要になる「妥当性」に着目しながら、アリストテレス以降のさまざまな「論証」形式を修得する。ここで正統な論理学の流れを実感しながら、最終的には、パズルを用いて、論理学界の「ランドマーク」と呼ばれる「不完全性定理」まで理解できる仕組みになっている。
第4章 論理を突き詰めるとどうなる? 【パラドックス】
古典的論争やパラドックスを「論理的思考」を用いて考察するとどうなるか、その驚異的なおもしろさに触れていただく。
第5章 世の中の難問に、どう答える? 【ジレンマ】
「第5章:ジレンマ」では、現実に解決困難な社会的ジレンマに関する議論を取り上げた。ぜひ読者にも一緒に「ロジカルコミュニケーション」を用いて考える楽しさを味わっていただきたい。
必ずしも最初から順を追って読み進める必要はないので、気になるセクションから好きなように読み飛ばしてほしい。
不明な言葉があれば前に戻って確認し、何度も前後左右を読み返しながら、事典のように読み込んでいただきたい。
結果的に、いつの間にか「論理的思考」と「ロジカルコミュニケーション」が身に付いているはずだ。
目次
第1章 論理的に考えて、うまく伝えるには? 【基礎】コミュニケーション能力/愛の三角関係/多種多彩なアドバイス/状況の図式化/すべての条件を満たす方法/三角関係の組み合わせ/論理的思考/バランス理論/価値観/賛否両論/論点のすりかえ/対人論法 /トーン・ポリシング/お前だって論法/お前だったら論法/衆人に訴える論法/感情に訴える論法 /信仰に訴える論法/権威に訴える論法/藁人形論法/赤いニシン論法/非言語コミュニケーション/いかにして問題をとくか
第2章 詐欺に騙されないためには? 【応用】
白黒論法/命題/排中律/二分法の詐欺/株式コンサルタントの詐欺/「宝くじ」は「ほとんど詐欺」/否定「Pではない」(¬P)/連言「PかつQ」(P∧Q)/選言「PまたはQ」(P∨Q)/ド・モルガンの法則/条件「もしPならばQ」(P⇒Q)/逆・裏・対偶/同値「Pのときに限ってQ」(P⇔Q)/トートロジー/矛盾/完全真理表
第3章 筋道立てて、証明するには? 【論証】
モダス・ポネンス/モダス・トレンス /後件肯定虚偽/前件否定虚偽/仮言三段論法/選言三段論法/加法/単純化/乗法/構成的ジレンマ/矛盾の証明/ナイトとネイブのパズル1/ナイトとネイブのパズル2/ナイトとネイブのパズル3/ナイトとネイブのパズル4/ナイトとネイブのパズル5/ゲーデルの不完全性定理/ナイト・クラブとネイブ・クラブのパズル/ゲーデルの証明/ゲーデルの証明の意味/不完全性定理のアナロジー
第4章 論理を突き詰めるとどうなる? 【パラドックス】
全能のパラドックス/宇宙論的証明/存在論的証明/目的論的証明/ワニのパズル/自己言及のパラドックス/相互言及のパラドックス/自意識のパラドックス/双子のパズル/言語理解のパラドックス/ドル・オークション/チキン・ゲーム/無限循環のパラドックス
第5章 世の中の難問に、どう答える? 【ジレンマ】
志願者のジレンマ/腐ったリンゴ仮説/囚人のジレンマ/ナッシュ均衡/ゲーム理論/プレゼント・ゲーム/新たなプレゼント・ゲーム/社会的ジレンマ国際学会/評論家の論法/非論理に陥った科学者/ノーベル病/演繹と帰納/述語論理/一発帰納/科学と帰納法/反証主義
著者について
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國學院大學教授・情報文化研究所所長・Japan Skeptics 副会長。青山学院大学・お茶の水女子大学・上智大学・多摩大学・東京医療保健大学・東京女子大学・東京大学・日本大学・放送大学・山梨医科大学・立教大学にて兼任講師を歴任。ウエスタンミシガン大学数学科および哲学科卒業後、ミシガン大学大学院哲学研究科修了。東京大学研究生、テンプル大学専任講師、城西国際大学助教授を経て現職。
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朝日カルチャーセンター・NHK文化センター・中日文化センター・ヒューマンアカデミーでも講座を担当。
専門は論理学・科学哲学。幅広い学問分野を知的探求!
著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』(以上、講談社現代新書)、『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『新書100冊』(以上、光文社新書)、『愛の論理学』(角川新書)、『東大生の論理』(ちくま新書)、『小林秀雄の哲学』(朝日新書)、『実践・哲学ディベート』(NHK出版新書)、『哲学ディベート』(NHKブックス)、『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(筑摩選書)、『科学哲学のすすめ』(丸善)、『天才の光と影』(PHP研究所)など。
監修書は『記号論理学』『数理論理学』『不完全性定理』(以上、丸善)、『ゼロからわかる論理的思考』『思考の迷宮パラドックス』『ザ・ヒストリー科学大百科』『図鑑哲学』『合理性を捨てれば人生が楽になる』(以上、ニュートンプレス)、『認知バイアス事典』『認知バイアス事典:行動経済学・統計学・情報学編』(以上、フォレスト出版)など。
趣味はJazz・Wine・将棋四段。