■オバマ政権のドル帝国再興で、日本は働きアリとなる
世界同時恐慌後、ドルは基軸通貨として通用しないのではないかと懸念されている。しかし、基軸通貨は市場原理の支配者となれることをアメリカは十分承知している。これまでも輸出入はすべてドル建てとなるために、為替相場を優位に操作してきた。
強いドルのおかげで、金融工学である証券化、デリバティブ、レバレッジという三種の神器を使って、サブプライムローンを作り出すことができた。
そして現在、アメリカはドルを大量に刷って(10年で刷る量を1年で刷ってしまった)、不良債権を買いまくっている。それでもインフレにならないのが今の不況の構造でもある。この負担を各国が負わされているわけであるが、とりわけ日本は、このアメリカの不良債権の肩代わりをさせられることになる。
■中国のねらいはアジア基軸通貨を掌握すること
中国は人民元をSDR通貨の仲間入りをさせて、アジアの基軸通貨としての元を目指している。つまり、人民元を地域間通貨として流通させることである。中国が米国債を大量に保有しているのも、人民共産党として、政治判断で国債を売り買いできることにある。そのねらいは、すべて人民元をSDR通貨にするために戦略である。もし中国がSDR通貨として組み込まれたら、現在3%にしか満たない円のSDRは簡単に人民元に抜かれるだろう。
しかも、アメリカは中国のこの要求を拒否することができない。中国が米国債をすべて売り飛ばせば、アメリカは破綻するしかない。
■ドイツはドルと戦うためにユーロを築いた
ドイツがユーロを作ったのは、基軸通貨ドルが市場原理の支配者の覇権を握っていることを帝国時代の教訓から知っているからで、強い通貨を武器にして統合するという強烈な国家意思があるからである。現にドイツは輸出の割合が48%で、中国の輸出比率と変わらない。しかし、その輸出先はほとんどがユーロ圏である。つまり、ユーロという地域間通貨でのやりとりのため、景気の変動による輸出コストを上乗せできるのである。
一方、日本はドル建ての貿易がほとんどのため、輸出コストをかけることができない。よって、円高による輸出コスト組み入れしか単価を上げることができない仕組みになってしまっている。こうした構造を避けるために、ドイツはユーロ戦略を推し進める。
■日本のデフレ脱却には、強烈な改革しかない
日本は中国のSDR通貨を阻止しなければならない。それには強い円を創出するために、日銀が紙幣を大量に発行し、国債を大量に引き受けさせるしかない。現在のアメリカが行っている「ばらまき論」である。それには、補正15兆円程度ではなく、100兆円規模の対策が必要である。
中国のSDR入りでアメリカもうかうかできなくなってきている。アメリカの尻を拭うのは日本だけという状況を脱却しなければ、日本は死滅する。日本経済は、待ったなしなのである。
著者について
田村秀男 (たむら・ひでお)産経新聞社特別記者・編集委員兼論説委員。
1946年、高知県伊野町生まれ。1970年、早稲田大学第一政治経済学部経済学科卒業。
同年、日本経済新聞社入社。1984~88年、日経ワシントン特派員。
その後、経済部編集委員、米国アジア財団上級客員研究員を経て、1996年、日経香港支局長。1999年、日経東京本社編集委員となる。
2006年、産経新聞社入社。2004年から早稲田大学政治経済学部で国際政治経済研究講座を受け持つ。
●主な著書
『金融業界』(日経事業出版社)
『ネットワーク資本主義―アメリカ「強さ」の研究』(編共著、日本経済新聞社)
『検証 株主資本主義』(編共著、日経BP社)
『検証 ヒューマン・キャピタル』(編共著、日本経済研究センター)
『人民元、ドル、円』(岩波新書)
『円の未来―欲望と欺瞞のマーケット』(光文社)
『経済で読む「日・米・中」関係―国際政治経済学入門』(扶桑社)
『世界はいつまでドルを支え続けるか』(扶桑社)
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