幼少期にテレビの前で目の当たりにした架空の人物の死。私の三大号泣作品は『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006年~/サンライズ制作)、『CLANNAD』(2007年~/Key、京都アニメーション制作)、『Angel Beats!』(2010年~/P.A.WORKS制作)です。これら作品にであっていなかったら、今の私はいないと言っても過言ではありません。私の死生観をつくった作品たちです。架空の人物の死はどうしてこんなにも私たちの心を揺り動かすのか? 社会の変遷と照らし合わせて考察することでその答えが見えてきました。あらためてアニメやマンガが大好きになると思います。アニメ・マンガ好き必読の1冊です。
POSTED BY美馬
フィクションの「死」を通して「社会」を探求する。
——シャーロック・ホームズは、熱烈なファンの声により生き返った(死んでいなかったことになった)。——力石徹(『あしたのジョー』)の死を悼んだファンの力により現実に葬儀が行われた。
——ラオウ(『北斗の拳』)が自死する際のセリフ、「我が生涯に一片の悔いなし!!」は、死に様の言葉としてネタに使われるほど、広く知られている。
このように、実在の人物の生死が社会的に意味を持つのと同じように、物語のキャラクターの死を悲しんだり、その死の意味を考えて論じたりするのはなぜだろうか? キャラクターの死は、現実に生きている私たちにとって、大切な何かの代理だと言えるかもしれない。アニメやマンガのキャラクターの死を取り上げて意味を探り、架空の人物の生死が私たちの心をなぜ揺り動かすのか、本書で掘り下げて考えていく。 ——まえがきより
【本書で考察した作品の一部例】(アニメ放送開始年順)
あしたのジョー/ルパン三世/海のトリトン/科学忍者隊ガッチャマン/宇宙戦艦ヤマト/フランダースの犬/さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち/機動戦士ガンダム/北斗の拳/タッチ/美少女戦士セーラームーン/新世紀エヴァンゲリオン/GANTZ/涼宮ハルヒの憂鬱/時をかける少女/らき☆すた/けいおん!/魔法少女まどか☆マギカ/STEINS;GATE/ソードアート・オンライン/氷菓/進撃の巨人/響け! ユーフォニアム/鬼滅の刃/機動戦士ガンダム 水星の魔女/チェンソーマン/グリッドマン ユニバース and more…
本書の目次
まえがき第1章 二〇世紀の名作アニメに描かれたキャラクターの死
1『フランダースの犬』『ルパン三世』ほか
サブキャラクターの人気獲得と死亡回の増加
●死を描かなかった70年代以前の子ども向けアニメ
●世代を超えて愛されてきたアニメの本当の姿
●サブキャラクターの台頭と女性ファンの獲得
2『海のトリトン』『宇宙戦艦ヤマト』
最終回大量死の衝撃とリアルな死の描写
●「皆殺し」の異名をとる人物の原点
●賛否両論語られるキャラクターの死の美化
3『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』ほか
死の描写や性描写が過激化した80年代
●波及する過激描写と茶の間の反応
●富野アニメだからできた衝撃的な残虐描写
●原作の残虐さを忠実に再現した名作アニメ
●オタクが白い目で見られるようになった理由
第2章 死を描かない京アニ作品から死を辿る
1死を描かない京アニ大ヒット作品と
『ひぐらしのなく頃に』『東のエデン』ほか深夜裏アニメ
●なぜ京アニは死を描かなかったのか?
●垣間見える京アニ制作姿勢の異質さ
●数々の伝説を残したアニメ作品の登場
●リアルな生死の問題が強く表現された年
2 平成中期の京アニ作品と
『Angel Beats!』ほか深夜裏アニメで描かれた死
●ゼロ年代アニメが辿り着いた最終進化形
●大災害に襲われた日本人がアニメに求めたもの
●大人向けアニメの増加と京アニ作品の方向転換
●時代の流行に乗り始めた作品選び
3『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『けいおん!』ほか
代表作から深掘りする京アニの死生観
●京アニのアニメ化企画の特徴
●深刻さを排除する徹底した作品作り
●家族よりも友人、恋愛よりも友情
●日本アニメにおける音楽表現の最高峰
4『氷菓』『Another』ほか
平成ミステリーアニメから見える死生観
●運命に導かれた2つの「自社製作」会社
●制作者が作品を選び、作品もまた制作者を選ぶ
●死者ゼロ作品を生んだキャラクターの保守性
●「涼宮ハルヒ」と「千反田える」の共通点
●誰も不幸にしないという作者の意志
●死の影を消す守られた世界での青春
●京アニの死生観が強く現れた劇場アニメ作品
●対照的に死を受け入れた劇場アニメ作品
●知らぬ間に変えられている視聴者の死生観
第3章 社会現象としてのキャラクターの生き様と死に様
1『あしたのジョー』
力石徹の葬儀と矢吹丈のラストシーンの謎
●前代未聞のキャラクターのリアル葬儀
●男は戦いのために生き、死んでも勝つもの
2『宇宙戦艦ヤマト』
語り継がれる沖田艦長の死に際の名セリフ
●新旧世代の交代を秀逸に描いた名シーン
●普遍的な存在感を放ったアニメ史に残るキャラクターの最期
3『タッチ』
和也の突然死と達也が残した名セリフ
●これまでになかった悲劇の表現
●死んでしまったヒーローには誰も勝てない
●三角関係の構図が印象付ける死の重み
4『北斗の拳』
ラオウの自死と死に際の名セリフ
●名セリフを多数生んだアクション作品の金字塔
●戦いに敗れ死してもなお信じるものは己のみ
5『機動戦士Ⅴガンダム』
深刻な死生観を思わせた唯一無二のガンダム作品
●ガンダム史上最も過酷な運命を背負わされた少年
●90年代の終末観に影響を受けた救いのない死
●人類抹殺のアイデアは偶然か必然か
6『新世紀エヴァンゲリオン』
綾波レイの死と復活がもたらしたもの
●制作陣が心を壊すほどの衝撃の傑作、あるいは問題作
●死の重みが軽んじられていったきっかけ
●平成アニメの典型を作った時間SF
第4章 死んでも蘇るキャラクターから見る平成アニメの死生観
1『ロードス島戦記』『スレイヤーズ』ほか
繰り返し可能なゲーム的死生観
●和製ファンタジーの元祖となった名作
●日本に「ファンタジー」が浸透したきっかけ
●暗黙の了解を打ち破った作品の登場
2『美少女戦士セーラームーン』ほか
現代美少女キャラを生んだ戦闘美少女&魔法少女
●一度きりの生を必死に生きたいと願った少女たち
●異質なオーラを放つ昭和の女性戦士たち
●戦闘美少女独特の存在感はどこから放たれているのか?
●当たり前に死を恐れ命を愛しむ少女像
3『GANTZ』『魔法少女まどか☆マギカ』ほか
生き返りとタイムリーパーたち
●時代の終末待望気分が生んだ儚い名作
●まるで没入型蘇りデスゲーム作品
●青春のリアルを追求したタイムリープ作品の金字塔
●視聴者も時間ループし続けた8週間
●超常ヒロインも「今しかできない」を求めている
●王道タイムリープ作品に見る複数の世界線
●世界を再創造するちゃぶ台返しのラスト
4『コードギアス反逆のルルーシュ』『革命機ヴァルヴレイヴ』ほか
不可逆的に流れる時間の終焉
●「時」は必ず終わるという現実を受け入れた3作
●あえてのカオスさが視聴者に親近感を与える
●日本人が好んでしまう英雄叙事詩的な物語
●多様性と文明の進化が見え隠れする異色作
5『グリッドマン ユニバース』
マルチバースの世界で見るアニメ
●怪獣・特撮アニメの最先端
●マルチバース的作品が若者の共感を集める理由
第5章 平成・令和のキャラクターに学ぶこれからの生き方
1『響け! ユーフォニアム』ほか
音楽系アニメから辿る死生観の変化
●時代とともに変わりゆく若年層の死生観
●ゼロ年代的な平穏無事な日常とは?
●部活アニメにリアリティを生み出す難しさ
●スポ根魂がキャラクターから死を遠ざける
●「リアリティ」の意味合いが変わった音楽アニメ
●死が身近にある物語ほど親和性の高い音楽
●死がテーマの曲に共通するある形式
●音楽アニメと音楽もあるアニメ
●リアルな社会問題が死を浮き彫りにする
2「異世界転生」関連作品ほか
二次創作の普及とゲーム化されていくキャラクターの死
●同じキャラクターなのに生死が異なる不思議な現象
●さまざまなジャンルで広がる革命的な展開
●マルチバース化最大の産物「異世界転生」作品
●必然的なキャラクターの死も生き返らせることができる時代
3『進撃の巨人』『鬼滅の刃』『君の名は。』ほか
令和に生きる人々の死生観
●世界は「人間原理」でいかようにも変わる
●なぜ人々は「鬼殺し」に魅了されたのか
●世界的に注目された震災3部作
●20世紀と21世紀の大人のあり方の違い
●生き生きと描かれた脇役キャラクターの力
●彼女を救うか、世界を救うか?
●現代人は「夢物語」を求めている?
4『ソードアート・オンライン』『チェンソーマン』ほか
王道メタバース作品と先祖返りの謎
●メタバース作品の過去・現在・未来
●世界市場売り上げベスト3の日本ラノベの共通点
●死生観は普遍性を保ち続ける
●現代人の精神的疲労を体現する非人間的なキャラクターの生き様
●令和の大ヒット作品で描かれる奇妙な先祖返り
あとがき
著者について
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1967年大阪生まれ。アニメブームのリアル世代。小学生の時に『宇宙戦艦ヤマト』初回放映を見てアニメファンになり、中高生の頃にはオタクのはしりだった。1989年、大阪芸術大学文芸学科卒業。在学中から作家を志し、セカイ系を先取りした小説を多数執筆。卒業後は、高校の国語教員として数校に勤務。1998年、小説『パブロのいる店で』(澪標)刊行。20世紀末当時、流行していた世紀末の気分を作品に描いた。2000年、村上春樹論の連載で「関西文学選奨」の奨励賞受賞。同年、評論『村上春樹を歩く』(彩流社)刊行。以後、高校教員のかたわら、文芸評論を多数発表。アニメ「涼宮ハルヒ」シリーズなどを比較研究した論文を、別名義でオンライン学会誌『こころの科学とエピステモロジー』に連載。2023年、評論『村上春樹の猿~獣と嫉妬と謎の死の系譜』(電子版)刊行。
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