「お疲れの現代人にとって何もしない練習とは?」というコンセプトから始まり、コロナ禍の静かな女子大を何度も訪れて著者に話を聞きました。「何もしない練習」についてはブッダがすでに答えを出していましたが理解するのは容易でなく……。最終的に「欲ばらない練習」が今の私たちには大切なのだという結論に至りました。コロナ禍は去り、世界は依然として問題を抱えていますが、あまり欲ばらなくても十分幸せです。欲ばらない練習は、同時に誰かの欲望に踊らされない練習でもあるのかもと思ったりします。
POSTED BY水原
必要な欲と不必要な欲を見分ける賢さを身につけよう
皆さんは欲ばりすぎて失敗したことはありませんか。あるいは意欲が湧かなくて困ったことはありませんか。あるいは他人の欲望や執着に悩まされたことはありませんか。この本は、人間なら誰でももっている「欲望」についてよく考え、「欲望」と賢くつき合えるようになるための書です。
本書は高校生でも読めるようにやさしく書かれてあります。そして、大学生でも、大人でも、高齢者でも、ビジネスの成功者でも、知識が豊富な人でも得るところがある内容だと思います。
なぜなら、どんなに知識や人生経験のある人であっても、社会的に立派な方であっても、案外自分の欲望についてはよく知らず、欲に振り回されていたり、欲をかきすぎて失敗してしまうことはよくあることだからです。 欲について無知だと、一時の欲に負けることで、失敗を繰り返したり、人生を棒に振ってしまったり、いつまでも幸せになれなかったり、成長の機会を逃してしまいます。欲を満たしても、なぜか虚しく感じることも少なくありません。
「欲望」の影響は、個人の問題だけには留まりません。他人の強い欲望に影響を受けたり、多くの人の欲望は社会全体に大きな影響を与えます。社会も、地球さえも、人間の欲望によって動かされています。
欲をよく知り、欲をコントロールすることは、個人の幸せのためだけではなく、これから地球人が生き残り、あらゆる生命が平和に共存するためにも、必須の知識と技術だということなのです。
しかし、欲をすべて捨てることができるかというと、なかなかそれはできないし、欲がなかったら人生つまらないと思う人も多いでしょう。
この本は欲をすべて捨てることを勧めるのではありません。それは完全な覚りを目指す出家修行者がやることです。
世俗の社会で暮らす私たちは、欲を完全に断つことは困難です。仕事をしながら、家族がありながら、欲望から完全にはなれることはほぼ不可能です。
私たちは欲によって行動し、その行動によって経験が生まれ、その経験から多くのことを学びます。ですので、欲のエネルギーを使って生きることは、私たちの成長に欠かせないことですし、大切な学びの原動力になるのです。
しかし、欲ばりすぎたり、欲望の対象に強く執着すれば、かえってうまくいかなくなったり、手に入れられないことで悩んだり、絶望したり、嫉妬したり、さまざまな苦しみが増えるというのも事実です。
必要のある適度な欲望はよい効果ももたらすことがあるけれども、欲ばり過ぎないほうがよいことが多いのです。
ですので、幸せになるためにこそ、欲についてよく知り、「欲ばらない練習」が必要なのです。すべての欲を捨てようとするのではなく、必要な欲と、そうでない欲を慎重に見分けて、必要でない欲望を過剰に「はらない」ようにする練習が必要なのです。
本書の目次
Ⅰ 欲を知る【知識編】1章 欲ばるとどうなってしまうのか?
欲に動かされる日常
欲に動かされる集団
欲は暴走しやすい
止められない欲
自分も他人も苦しめる欲
エピキュリアン
今だけ、金だけ、自分だけ
欲望は国も支配する
欲を知ることで幸せになれる
食欲
快楽のために食べる
貪らずに食べる
承認欲求
うつ病の激増
無視されるくらいなら殴られたい
SNSで承認されたい
他者迎合すると尊重されない
過剰に好かれたい対人恐怖症
承認欲求を手放すと承認される
金銭欲と苦しみ
金の亡者たち
行き過ぎた富の偏り
お金は執着せずに大切にするもの
ブッダが勧めるお金の使い方
欲望のバリエーション・チェック
ファーストステップはあるがままの欲望に気づくこと
決して責めずに欲を見つめよう
恐るべき欲望クラスター
強まるルッキズム
美しくなりたい
見解への執着
邪見は危険
簡単に見解を信じるな
生存欲と死の苦しみ
死の瞑想
死の欲望と安楽死・尊厳死
死の欲望をめぐる厳しい現実
欲望の法則
やる気を出させる神経伝達物質
ドーパミン依存症
怒りや悲しみの原因
カスハラを引き起こす欲
欲は現実を見えなくする
愛欲に溺れて国を滅ぼす
親しい人々を苦しめ続けるギャンブル依存症
はた迷惑で大きな代償を支払う痴漢
生命の大量殺戮
合理的で現実的な解決法
グリーンウォッシュ
唯一の根本解決法とは
2章 幸せになる心
慈しみの心
自他を区別しない
哀れみの心
畜生への哀れみ
餓鬼への回向
慈悲喜で与え合い高め合う世界に生きる
広い心
好奇心の功罪
情報依存症
向上心の功罪
成長欲求
求法心と菩提心
3章 欲の分析と取り扱い方
欲の強度:渇愛と執着
欲のさまざまな特性
一目惚れ
欲を張ると愚かになる
過剰な欲は空回りさせる
修行のコツ
中道に生きる
善悪の混合割合を見積もる
欲は無常
業の法則に則る
貪欲から善心へのトランスフォーメーション
4章 出家修行で見えた真実
ブッダの直説との出会い
初期仏教とは
小乗は事実ではない
原始仏典は究極の実践心理学
ミャンマーとタイで出家修行
異次元の喜び
離欲の威力を思い知る
世俗の生活で心の自由を得るために
欲から自由になる実験実習の薦め
Ⅱ 欲との賢いつき合い方【実践編】
第5章 掃除
いらないものを捨てる
毎日1分間掃除をする
掃除は達成感と集中力を得やすい
大物を断捨離する
心の塵垢も掃除する
掃除する場所
清潔に執着しない
生きることは掃除をすること
自分の身体も滅する
落ち葉は煩悩のごとし
掃除は場も心も浄める
6章 シーラ
心を守り解放する戒律
シーラとウィナヤ
欲ばらないための五戒
生きものを故意に殺さない[不殺生戒]
すべての生命は殺されたくない
他者に与えた苦痛は自分に返ってくる
害意を慈悲の心に置き換える
与えられていないものをとらない[不偸盗戒]
自己中心的な欲望に気づく
「手に入れたい」から「与えたい」に
不倫行為をしない[不邪淫戒]
慈悲がないから不倫をする
嘘をつかない[不妄語戒]
嘘は嘘を呼ぶ
自分を守るための嘘
微妙な嘘・無意識的な嘘・自分も欺く嘘
大嘘
嘘に騙されないことは社会全体の利益
一度失った信頼の回復は難しい
慈悲と智慧によって言葉を使う
穀物酒や果実酒など意識を酩酊させるものを控える[不飲酒戒]
飲酒の影響
明晰な気づきを保つこと
7章 ダーナ
人によって異なる中道
ダーナによる中道の達成
ダーナのやり方
ダーナの4つの利益
得ようとすると失い、与えると得る
ダーナをするときの心を観察する
自分を責めずに純粋なダーナを目指す
慈悲喜捨による完全な善行為
四無量心への気づき
捨によって配慮して与える
教育ママ・教育パパ
毒入りのダーナ
不純なダーナは受け取らない
健全なダーナ
徳によって大きく異なる善果
こよなき幸せに至る秘訣
8章 知足と感謝の瞑想
欲ばりは現状への不満
不平不満は餓鬼の心
餓鬼に堕ちるな
今すでにある幸せを認識して感謝する
当たり前と思うな、離欲を楽しめ
知足と感謝の瞑想
この瞑想の注意点
知足と感謝の効果
欲を手放しやすくなる
著者について
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行者(修験道、初期仏教)、臨床心理士、公認心理師、相模女子大学教授、法喜楽庵(心理相談室)・法喜楽堂(瞑想道場)代表、日本トランスパーソナル心理学/精神医学会前会長。
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1971年、神奈川県相模原市生まれ、山梨県山中湖村在住。早稲田大学人間科学部卒、早稲田大学大学院人間科学研究科卒。病院心理カウンセラー(精神科、心療内科)、大学学生相談員などを経て、法喜楽庵(心理相談室)・法喜楽堂(瞑想道場)を開業、心理療法を約30年、瞑想会・リトリートを15年以上実践。
学術研究の限界を感じて修行の世界に足を踏み入れる。修験道(熊野)、アマゾン・ネオ・シャーマニズム(ブラジル)、上座部仏教短期出家(ミャンマー、タイ)などを経て、初期仏教に基づく独自の修行・研究・臨床実践を行う。心理療法、瞑想、ダンマを統合した独自のダンマ・セラピーを実践・研究。
相模女子大学人間社会学部人間心理学科では「臨床心理学概論」「ソマティック心理学概論」「宗教心理学」「心理療法演習(臨床動作法)」「ソマティックス演習Ⅰ(瞑想法)」「心理実習」などの科目を担当。
主な著書に『ブッダの瞑想修行』『心を救うことはできるのか[新装版]』(以上、サンガ新社)、『修行の心理学:修験道、アマゾン・ネオ・シャーマニズム、そしてダンマへ』『新・臨床心理学事典:心の諸問題・治療と修養法・霊性』(以上、コスモス・ライブラリー)、『スピリット・センタード・セラピー』(せせらぎ出版)、『心理療法とスピリチュアリティ』(勁草書房)など。